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健診機関の受診数予測(AI)

空いた枠に入れられる人は、思っているより少ない

当日の欠席で空いた枠は、誰でも入れられる枠ではありません。年齢と保険者で検査の組み合わせが変わり、便の容器は前もって配ってあるからです。健診センターと、健診をやっているクリニックに向けて書きました。

この記事でわかること

  • 空きは人数で数えられません。定期健康診断では、貧血・肝機能・血中脂質・血糖・心電図の5つを35歳未満の人と36〜39歳の人について省略できる基準があり、同じ1枠でも中身が違います。
  • 当日の朝に電話をかけても間に合わない検査があります。大腸がん検診の便潜血検査は2日法で、採便用具を先に配って自宅で2日ぶん採ってもらうと国の指針が定めています。
  • 事業所の名簿が動くのは、事業者側の期限に幅があるためです。定期健康診断は1年以内ごとに1回、深夜業を含む業務などは6月以内ごとに1回と決まっています。
  • 当日の欠席が何人出るかを公表した統計は見つかりませんでした。自院の予約台帳から、コース別・事業所別に3ヶ月ぶん数えるところから始めます。
  • 仕組みが出すのは人数の幅までで、何人へ案内するかは受付が決めます。繰り上げた人の席が無くなる事故を防ぐため、案内は幅の下限までにとどめます。

空いた1枠に、キャンセル待ちの人をそのまま入れられるか

健診機関から相談を受けたとき、当社が最初に確認するのは欠席の人数より先に、空いた枠の中身です。同じ「9時30分の1枠」でも、そこに入れられる人は限られます。

労働安全衛生規則第44条は、定期健康診断の項目を11に定めています。既往歴と業務歴の調査から、身長・体重・腹囲、胸部エックス線検査、血圧、採血の各検査、尿検査、心電図検査まで。ただし、この11が全員に行われるとは限りません。

厚生労働省のリーフレット「労働安全衛生法に基づく健康診断を実施しましょう」には、項目ごとの省略基準が載っています。貧血検査、肝機能検査、血中脂質検査、血糖検査、心電図検査の5つは、35歳未満の者および36歳から39歳の者について、医師が必要でないと認めるときは省略できます。胸部エックス線検査も、40歳未満のうち20歳・25歳・30歳・35歳の節目年齢などに当たらない人なら省略できます。

同じリーフレットには、これらの省略基準を年齢等により機械的に当てはめず、医師が総合的に判断することという注意書きも添えられています。それでも実務上は、受診する人の年齢によって採血の有無が変わるということです。

つまり、34歳の人の枠が空いたとき、そこに42歳の人を入れると採血と心電図の分だけ時間と人手が増えます。逆に42歳の枠に34歳の人を入れれば、確保していた検査の手が空きます。空き枠を人数だけで数えていると、この差がまるごと見えなくなります。

当日の朝に電話をかけても、間に合わない検査がある

繰り上げの案内をいつまでに出すかは、いちばん手前に期限が来る検査で決まります。多くの健診機関で、それは大腸がん検診です。

「がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針」は、大腸がん検診の項目を問診と便潜血検査とし、便潜血検査は免疫便潜血検査2日法により行うと定めています。採便用具を配布して自己採便とすること、配布は検体の回収日時を考慮して適切な時期に行うこと、初回の検体は自宅で冷蔵保存し2回目を採取した後に即日回収することを原則とすること。受診者からの郵送は、温度管理が難しく精度が下がるため原則として行わないとも書かれています。

逆から並べると、案内の期限が出ます。当日に検体を持ってきてもらうには、その2日前までに自宅で1回目を採ってもらう必要があり、容器はさらにその前に手元へ届いていなければなりません。当日の朝に「空きが出ました」と伝えても、この検査だけは間に合いません。

胃部エックス線検査のほうは、当日の人手の話になります。同じ指針は、写真の読影を原則として十分な経験を有する2名以上の医師が行うこと、撮影枚数を最低8枚とすることを定めています。1人増やすことは、あとから読影する側の枚数も増やすということです。

だから繰り上げの期限は、コースごとに別々に置くことになります。採血と尿検査だけの枠なら前日の夕方まで動かせますし、便の容器が要るコースなら3日前が最後です。ここを1本の期限にまとめてしまうと、動かせたはずの枠まで諦めることになります。

事業所の名簿は、なぜ直前まで固まらないのか

当日の欠席は受診者の都合で起きますが、名簿そのものが動く理由は制度の側にもあります。事業者に課された期限に、日にちの幅があるためです。

労働安全衛生規則第44条は、事業者に対し常時使用する労働者へ1年以内ごとに1回、定期に健康診断を行うことを義務づけています。同第45条は、深夜業を含む業務など規則第13条第1項第3号に掲げる業務に常時従事する労働者について、配置替えの際と6月以内ごとに1回と定めています。胸部エックス線検査だけは1年以内ごとに1回で足ります。

事業者が守るのは「前回から1年以内」という条件なので、何月何日に受けさせるかは事業所が決められます。健診機関から見ると、名簿の人数は先に確定していても、日付は動かせる余地が残っているということです。

中途入社も名簿を動かします。同第44条第3項により、雇入時の健康診断を受けた人は実施の日から1年間、相当する項目を省略できます。年度の途中で入った人が、その年の定期健診の名簿から抜けるのはこのためです。

事業所の側にも記録の義務があります。同第51条は健康診断個人票を作成して5年間保存することを、第52条は常時50人以上の労働者を使用する事業者が定期の健康診断を行ったときに、遅滞なく電子情報処理組織を使用して所轄労働基準監督署長へ報告することを定めています。

埋めたい枠の相手は、どこにどれだけいるのか

案内を出す相手を考えるとき、保険者の種類で受診率がかなり違うことが手がかりになります。

厚生労働省が公表した「特定健診・特定保健指導の実施状況について(2022年度)」によると、集計対象3,363保険者の特定健診実施率は総数で58.1%でした。内訳は、健保組合が82.0%、共済組合が81.4%、全国健康保険協会が57.1%、船員保険が52.2%、国保組合が51.0%、市町村国保が37.5%です。

大企業の健保組合は8割が受けていて、中小企業の多い全国健康保険協会は6割弱です。地域差もあります。同省が公表している令和6年度の都道府県別特定健診受診率は、全国が61.4%(対象約5,142万人、受診約3,160万人)、北海道は52.0%(対象約222万人、受診約116万人)でした。

空き枠を埋める話は、当日の穴埋めだけの話で終わりません。まだ受けていない人のほうが、待っている人より多い地域があるという前提で、案内を出す先を決めるほうが実際に埋まります。

欠席は何人出るのか。まず自院の台帳から数える

ここから先は、公的な資料では埋められません。健診の当日欠席が何%出るかを全国で集計した統計は、当社が探した範囲では見つかりませんでした。施設ごとに受診者の構成が違うので、よその数字を借りても意味がありません。

数える対象は5つです。日付、コース名、事業所名または保険者、予約した人数、実際に受付した人数。これに「事前に連絡があったか」の欄を足します。予約台帳から書き写すだけなので、過去3ヶ月ぶんなら数時間で終わります。

3ヶ月ぶん並べると、コースによって欠席の出方が違うことが見えてきます。事業所健診と個人の人間ドックでは事情が違いますし、同じ事業所健診でも、事業所ごとに毎回そろう会社と毎回2〜3人抜ける会社に分かれるはずです。

この記録が貯まってはじめて、仕組みに任せる話ができます。仕組みが出すのは「あすのこのコースは2人から5人が来ない見込み」という幅で、1つの数字は出しません。案内を幅の下限までと決めておけば、繰り上げた人の席が無くなる事故は起きません。

決めるのは人です。前日の何時に、誰が、何人へ案内を出すかを先に決めてください。当社が関わる場合も、そこを機械に渡すことはしません。外れた日については、理由を1行だけ残す欄を画面に置きます。「事業所の繁忙が重なった」「大雪だった」。この1行が、次の見込みの材料になります。

DEMO

欠席の幅を入れると、案内は何人に出せるか

あすの予約人数と、記録から出した欠席人数の下限・上限を入れると、案内してよい人数と、埋まったときに戻る金額が出ます。健診機関ごとに違う数字はすべて入力欄にしてあります。

繰り上げ案内の人数の試算|欠席の幅から案内数と金額を出す

予約人数、欠席の下限と上限、案内に応じる割合、1件あたりの健診単価を入れると、下限まで案内した場合と上限まで案内した場合で、埋まる枠と席が足りなくなる危険がどう変わるかが出ます。

触って動かせます
計算の中身
欠席の下限までを案内枠として扱い、応じる割合を掛けて埋まる見込み数を出しています。予測そのものは行いません。
既定値の出どころ
予約人数と単価は入力例です。欠席の下限と上限は、自院の台帳3ヶ月ぶんから出した数字に置き換えてください。
確かめてほしいところ
上限まで案内すると、埋まる数は増えますが席が足りなくなる日が出ます。その差を金額で見比べてください。

※ 応じる割合と単価は施設ごとに違います。初期値は入力例で、実績値ではありません。

Excelで足りる範囲と、作る場合の費用の決め方

最初の3ヶ月は表計算ソフトで足ります。前の章の5項目を1行ずつ並べ、コース別・事業所別に欠席人数の平均と、いちばん少なかった日・多かった日を出す。これで案内すべき人数のあたりはつきます。

手が止まるのは2か所です。1つは区分を細かくしたときで、コース別・事業所別・曜日別と割っていくと、1区分あたりの日数が減って平均が当てにならなくなります。もう1つは人が交代したときで、前日の判断が担当者の記憶に依存していると、休んだ日に止まります。

仕組みにする場合、見積もりを出すために決めることは4つです。対象にするコースの範囲。予約台帳の書き出し方で、いま使っている健診システムから予約と受付の記録を表計算で開ける形にできるかどうか。案内を電話とSMSとメールのどれで出すか。そして、既存の健診システムとつなぐか、当面は別の画面として持つか。最後の1つで期間も費用も大きく変わります。

期間の目安は、集計と案内の一覧だけを作るなら2ヶ月前後です。既存の健診システムとつなぐ場合は、相手側の仕様を確かめる時間がそのぶん乗ります。健診には春と秋に山があるので、着手はその手前か後ろに置くほうが現場の手が空きます。

費用の考え方そのものは、試す費用・作る費用・使い続ける費用の3つに分けた記事(AI開発の費用はどう決まるか)に整理してあります。健診の場合は「試す」を自院の台帳3ヶ月ぶんで済ませられるので、外に出す前に判断できる部分が多いほうです。

小さく始めるなら、いちばん枠が空くコース1つ、期間は1ヶ月。案内は電話のまま、対象者の一覧だけを画面に出す。これで前日の判断が何分で終わるようになったかを測ってから、範囲を広げてください。画面まで含めた形は、健診機関の受診数予測AIの開発プランに置いてあります。

まとめ

空き枠は、人数より検査の組み合わせで数えます。定期健康診断では35歳未満の人と36〜39歳の人について採血の5項目を省略できる基準があり、同じ1枠でも中身が違います。

案内の期限は、いちばん手前の検査で決まります。大腸がん検診の便潜血検査は2日法で、採便用具を先に配る必要があるため、当日の朝では間に合いません。

効果は当てた率で測りません。埋まった枠の数と、前日の判断にかかっていた時間で見ます。仕組みは人数の幅までを出し、案内の人数は受付が決めます。

次にやることを1つ挙げます。直近3ヶ月の予約台帳から、日付・コース・事業所・予約人数・受付人数の5列を書き写してください。コースごとの差が出た時点で、どの枠から手をつけるかが決まります。

よくある質問

予約システムを入れれば、空いた枠は自動で埋まりますか。

キャンセル待ちの登録と通知までは、既製の予約システムで自動にできます。埋まらないのはその先で、通知を受け取った人がそのコースを受けられるかどうかの判定が残るためです。年齢で検査項目が変わること、便の容器が手元にあるかどうかは、予約システムが持っている情報だけでは決まりません。まず、通知を出した人数と実際に埋まった数を1ヶ月ぶん数えてみてください。差が小さければ既製品で足ります。

何人来ないかを、当てられるようになりますか。

1人単位で当てる使い方はおすすめしません。出せるのは「2人から5人」のような幅で、そこから先は運用の設計で吸収します。案内を幅の下限までにとどめれば、繰り上げた人の席が無くなることは起きません。当てた率を上げることより、外れても事故にならない手順を先に決めるほうが実務では効きます。

事業所健診と人間ドックで、扱いを分けたほうがいいですか。

分けてください。事業所健診は名簿が先に確定していて、事業者に1年以内ごとに1回という期限があるので、来なかった人に別日を案内する余地があります。人間ドックは個人の予約で、待っている人がいる施設もあります。どちらの列から埋めるかで金額も手間も変わるため、記録の段階からコースを分けて数えてください。

いま使っている健診システムを入れ替える必要がありますか。

入れ替えは要りません。予約と受付の記録を表計算で書き出せるなら、その先の集計と案内の一覧だけを別の画面として足す形から始められます。既存システムとの連携は、手で回してみて続きそうだと分かってから検討すれば間に合います。まずメーカーに、予約と受付の記録をCSVで書き出せるかどうかを確認してください。

この記事を書いた人

立石伊吹代表取締役 / DX・AIアドバイザー

北海道札幌市手稲区の会社です。北海道内は直接うかがい、道外はオンラインで対応しています。専門用語を使わず、相手の言葉で話すことを大事にしています。

あすの空き枠を、前日のうちに決められるようにします

予約台帳を書き出したことがない、コースごとの欠席を数えたことがない。その段階からで大丈夫です。手元の記録で何が出せるか、既製の予約システムで足りるかどうかも含めて一緒に確かめます。

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