EvoQuest
EvoQuest Food需要予測AI 執筆:水上貴洋(取締役) 2026.07

SCENARIO ── DRAFT BEER KEG CASE

「残り1本になったら2本頼む」。
その決めごとが、金曜の夜だけ効かない。

札幌の飲み屋街から少し外れた、席数60ほどの大衆酒場。生ビールは出数の柱で、19リットルの樽をつなぎっぱなしにしています。発注のルールは決まっていて、庫内の樽が残り1本になったら酒屋に2本頼む。平日はこれで回ります。回らないのは金曜と土曜で、月に一度か二度は21時ごろに生が切れ、瓶に振り替えてしのぐことになる。残りの樽で何杯出せるかを、週末の販売見込みと比べていないためです。金曜配達ぶんを何本にするか、木曜16時までに決め切るところまでを、EvoQuest Foodの業務システムとして組み立てます。

想定領域
発注量の予測 / 飲食店の業務改善
担当範囲
要件整理・予測設計・画面設計・実装
想定対象
席数60ほどの大衆酒場(生ビール2系統)
想定期間
設計〜納品 約 2 ヶ月

OVERVIEW

プロジェクト概要

生ビールの発注は、飲食店の仕入れのなかでは単純なほうです。品目は1つか2つで、単位は樽1本。置き場所も決まっています。だから発注のやり方を解説した記事はどれも、発注点のルールを勧めます。残り1本になったら2本頼む。経験の浅い人でも迷わず打てる、よくできたルールです。

それでも週末に切れるのは、残りの樽で出せる杯数を、販売見込みと比べていないからです。19リットルの樽は中ジョッキでおよそ63杯ぶん。ただしこれはカタログの数字で、泡と最初の捨て注ぎとホースに残る分を引くと、店の実測はもう少し下がります。庫内に1本あるという事実は、あと58杯出せるという意味でしかない。金曜と土曜で120杯出る店では、1本では届かないと最初から決まっています。残り本数を杯数に換算すれば、週末に足りるかを確かめられます。

当社がこのシナリオで目指すゴールは一つです。木曜の16時、店長が金曜配達ぶんの本数を決めて酒屋に送る。この一回の送信が、毎週きちんと終わること。当たる予測をつくることは、その手前の材料でしかありません。

CHALLENGE

課題

  • 01 樽を本数で数え、ビールを杯数で売っている。庫内に何本あるかは誰でも言えるのに、それが何杯ぶんかを言える人がいません。単位が変わるところに勘が挟まっています。
  • 02 週の後半に杯数が寄る。月曜から木曜までの4日と、金曜と土曜の2日が、だいたい同じ杯数になります。発注点のルールは曜日を見ないので、週の前半も週末前も同じ数を頼んでしまう。
  • 03 多めに頼むにも上限がある。バックヤードの冷蔵庫に入る樽は4本まで。未開封なら賞味期限は製造から9ヶ月あって腐りはしないのに、置き場所のほうが先に埋まります。庫内を埋めた週は、次の配達日に頼める本数がその分だけ減る。
  • 04 切らした夜の記録がどこにも残らない。残った樽は目に入るので次から少なめに頼むほうへ傾き、瓶に振り替えた夜は「今日は出たね」で流れていく。売り切れの影響を振り返らないまま、発注数だけが減っていきます。

APPROACH

課題への対応

木曜16時を、金曜配達分の発注数を確定する時刻にします。金曜の配達で何本入れるかを決めて、酒屋に送る。決めるのは店長、期限は酒屋の受付が閉まる時間。予測を確認する時刻を、酒屋への発注締切に合わせます。画面は、この発注を完了するための道具として作ります。残量と販売見込みを同じ画面で確認し、発注数を決められるようにします。

数えるのは本数ではなく杯数です。金曜配達ぶんでまかなうのは金・土・日・月の4日。この4日で何杯出るかを幅で出し、納品時点の残量を杯数に換算して引き、1本あたりの杯数で割って、必要本数を切り上げる。端数を切り上げるため、予測が数杯ずれても発注本数が変わらない場合があります。答えが変わるのは境目にいるときだけで、画面では、予測幅の下限と上限で必要本数が変わるかを先に示します。3本で足りるか、4本要るか。迷いのない週は開いて10秒で閉じられます。

飲み放題の予約分は、予約人数と過去の1人あたり杯数から見込みを計算します。実際に飲む杯数は当日まで変わるため、確定値としては扱いません。予約分の見込みと、それ以外のお客さまに出す杯数の予測を合計し、必要本数を計算します。画面では予約分と予約外の分を塗り分け、内訳が分かるようにします。宴会の入った週ほど、予測に任せる範囲は狭くなります。

外れる日があることも、画面に織り込みます。予測は幅で出し、店長はその場で本数を書き換えられる。書き換えた事実は記録に残り、翌週の材料になります。営業中に切れそうなときは、混雑する前に予備の樽を冷やしはじめる合図を出す。決めるのはカウンターの中の人で、仕組みの仕事は杯数と期限を出すところまでです。

効果の見かたは、当たった外れたから離します。切れた夜はその時刻を打ってもらい、そこから閉店までに瓶へ振り替えた杯数と、断った杯数の推計を金額で積む。逆に、開けないまま庫内で待っている樽には滞留日数を付けて、未使用の在庫にかかっている仕入額として並べます。週に一度、この二つを同じ表に出す。事前の通知が何時間前に出せていたかも、同じ表に載せます。

CONSULTATION

本数で数えているものを、杯数で数え直す。

残り1本というのは、あと58杯という意味でしかありません。
単位をそろえるだけで見えてくるものが、樽のまわりにはまだあります。
レジから何が出せるかの確認から、ご相談ください。

SCREENS

主要画面

想定する画面のサンプル。木曜の発注は事務室のパソコン、営業中の記録はカウンター内のタブレットで使う前提の作りです。店名・杯数・本数・金額はすべて想定例で、実在の店舗・実績ではありません。

01. いま何杯残っているか

毎日いちばん開く画面。右の柱に、つないでいる樽と庫内の在庫が縦のゲージで並びます。左はきょうの予測と、いまの出方。この調子だと何時ごろ空になるか、混雑する前に予備を冷やしはじめるかどうかを、開店前と営業中に見ます。

きょうの残量
設計のポイント
樽の残りを縦の筒で見せ、目盛りは本数を捨てて残り杯数で刻む。
事前の通知
出足が速い夜は「この調子だと21時40分ごろ空になります」と、混雑する前に知らせる。
冷やす合図
常温の樽は冷えるまで時間がかかるため、切れる見込みが立った時点で庫内の移動を促す。

02. 木曜16時、3本か4本か

週に一度だけ開く決定の画面。金・土・日・月の4日分について、予約分と予約外の販売見込みを合計します。納品時点の残量を引き、1本あたりの杯数で割って、必要本数を切り上げます。境目にいるときだけ、判断の材料が下に開きます。

発注
設計のポイント
数字を並べるより先に「3本」「4本」の2択を出す。迷いのない週は10秒で閉じられる。
塗り分け
予約人数から見込む杯数を濃い色、予約外の販売見込みを斜線にして、その広さを見せる。
上限の扱い
冷蔵庫に入る4本という上限を表示し、納品時の残りと発注分の合計が超えないか確認する。

03. なぜ78〜96杯なのか

4日ぶんの予測を、1日ずつ開いて確かめる画面。曜日ごとの平常値に、予約の中身と気温、近隣の催しを足し引きします。気温の影響は言われているほど素直とは限らないので、この店の伝票で確かめた影響の大きさをそのまま出します。

予測の内訳
設計のポイント
「+18杯:土曜に12名の飲み放題」のように、足し引きの跡を残す。
気温の扱い
世間で言われる25度の線をそのまま当てず、この店の伝票で影響の大きさを測り直して使う。
樽への換算
杯数から本数に直すときの1本あたり杯数は、実測の平均を使い、その値も画面で確認できる。

04. 開けてから空になるまで

1本ごとの記録が並ぶ画面。いつ入荷して、いつ開栓して、何杯出て、いつ空になったか。空樽の返却待ちとガスボンベの残りも同じ列に置きます。1本あたりの実測杯数は、この記録から自動で更新されます。

樽の台帳
設計のポイント
入荷から返却までを1本1行の帯で表し、庫内で待っている日数を帯の長さで見せる。
開栓後の目安
開けた樽は3日で回す前提のため、3日を越えた樽には印を付けて上に上げる。
入力の重さ
開栓と空の2回だけタップする。杯数はレジの記録から拾い、手入力を増やさない。

05. 売り切れた日の記録と、未開栓の在庫

先週の実績を照合する画面。切れた時刻と、そこから閉店までに瓶へ振り替えた杯数、断った杯数の推計を金額で出します。反対側には、開けないまま庫内で待っていた樽の滞留日数を並べます。片側だけが伸びている週が見つかります。

週の集計
設計のポイント
売り逃しと滞留を左右対称の棒で並べ、どちらに寄った週かを目で拾えるようにする。
推計の見せかた
断った杯数は推計だと分かる表記を付け、算出の式を画面から開けるようにする。
打ち手
行から「来週の下限を4本に上げる」を提案し、承認すると次の木曜の発注画面に反映される。

OUTCOME

導入による変化

仕組みが運用に乗ったあと、樽まわりの段取りが3つの点で変わる想定です。

01

発注の単位が
残り本数から、4日ぶんの杯数へ。

Before庫内を見て「残り1本だから2本」。曜日も予約も、判断に入っていなかった。
After金・土・日・月の予約外の販売数を予測し、予約分の見込みを加えて在庫を引き、1本あたり杯数で割って必要本数を切り上げる。木曜16時に送信して終わる。

端数を切り上げるため、予測が数杯ずれても本数が変わらない場合があります。答えが変わる境目にいるときだけ、材料を開いて見てもらう作りにしています。

02

売り切れた日の記録を、翌週の発注に使える。

Before21時に生が切れて瓶で回した夜は、翌朝には話題にも上がらず、翌週の発注も同じだった。
After切れた時刻が残り、そこから閉店までの振り替えと断った杯数が金額で積み上がる。

残った樽は目に入るので発注は自然と少なめへ傾きます。見えない側を同じ強さで記録しておかないと、その傾きは止まりません。

03

樽の交換に備えるタイミングを
混雑してからではなく、混雑前へ。

Before混んでいる時間の真ん中で泡だけになり、カウンターを離れて樽を替えに走っていた。
After出足の速い夜は早めに合図が出るので、手の空いている時間帯に予備の樽を冷やし、交換に備えられる。

19リットルの樽は24キロを超えます。替える作業そのものは軽くならないので、替える時刻をずらすことで手当てします。

PROCESS

2ヶ月の進め方

札幌市内なら店舗へ伺い、道外はオンラインで進めます。予測する対象が生ビールの2系統だけなので、設計から納品まで2ヶ月の想定です。月の区切りで実際に触れるものをお渡しし、カウンターで使ってみた感想を次の作業に反映します。

1
MONTH 01 / 単位をそろえる + 決定の形を決める

「1本が何杯か」を店の伝票で測り直す月。

レジの生ビールの杯数を1年ぶん取り出し、樽の入荷と開栓の記録と突き合わせて、この店の1本あたり杯数を出します。飲み放題1人あたりの杯数も同じ資料から拾い、木曜16時に何を見て決めるかを店長と一緒に決めます。

  • カウンターと事務室でのヒアリング(2〜3回)
  • レジの杯数と仕入伝票の突き合わせ
  • 1本あたり杯数と飲み放題1人あたり杯数の実測
  • 発注画面と樽台帳の下書き
2
MONTH 02 / 予測の実装 + 記録と週の集計

4日ぶんの杯数を予測する仕組みと、実績と照合する表を作る月。

曜日と予約から4日ぶんの杯数を幅で出す仕組みを組み、気温の影響はこの店の伝票で測ってから足します。切れた時刻の記録と週の集計まで作ったら、3週間はいまの発注のやり方と並走させ、木曜16時までに発注を確定できるかを確かめてから納品します。

  • 杯数の予測の試作と幅の調整
  • 5画面の開発
  • いまの発注方法との3週間の並走
  • 納品 + 運用の引き継ぎ

FAQ

よくある質問

  • Q1 樽の残量は正確に分かるものですか?
    器具を付けて量るところまではやりません。レジに残っている生ビールの杯数を、開栓した樽から引いていくだけです。1本あたりの杯数は店ごとに違うので、開栓から空になるまでの実測を何本か重ねて平均を出し、そこから逆算します。数杯の誤差は残りますが、発注の本数は切り上げで決まるため、この程度の粗さで判断できます。
  • Q2 酒屋が毎日配達に来る店でも意味がありますか?
    発注の本数を決める部分は軽くなります。毎日入るなら、庫内に置くのは1本か2本で足りるからです。その場合は営業中の事前通知と、季節限定の樽の扱いのほうに寄せて作ります。限定の樽は回転が遅く、開けないまま何日も庫内を占領しがちなので、置き場所の取り合いは配達の頻度と関係なく起きます。
  • Q3 クラフトビールを何種類もつないでいる店でも使えますか?
    使えます。ただし設計は変わります。種類が増えるほど1種あたりの杯数は減り、曜日の平常値が立ちにくくなるので、1種ずつ予測するのをやめて「この枠で週に何杯出るか」を先に出し、枠の中でどの銘柄を回すかは店の選択に残します。開栓から何日で味が落ちるかの見かたも、樽のサイズによって変える必要があります。
  • Q4 レジから生ビールの杯数が出せれば始められますか?
    日ごとの杯数が表計算データで出れば十分です。時間帯まで出れば、営業中の事前通知が早く出せるようになります。予約の人数と飲み放題かどうかが分かる記録もあると、予約分の杯数を見込みやすくなります。何が出せるか分からない場合は、レジの画面を一緒に見ながら確認するところからお手伝いします。

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