AIの基礎・活用
AIの「学習」と「推論」は何が違う?
学習は、過去の記録を使ってAIの中身を決める作業です。推論は、出来上がったAIに新しいデータを入れて、予測や文章などの答えを出す作業です。提案書でどちらの話かが分かると、用意するデータと、費用がかかる場面を見分けられます。
この記事でわかること
- 総務省・経済産業省の「AI事業者ガイドライン(第1.2版)」は、学習を「データを用いてAIモデルのパラメータを決定または改善するプロセス」、推論を「学習済みモデルに未知のデータを与え、出力を得るプロセス」と定義しています。
- 学習はAIを作るときと作り直すときに行い、推論はAIを使うたびに行います。来客数の予測なら、過去の記録から仕組みを作るのが学習、毎朝あしたの条件を入れて見込みを出すのが推論です。
- 学習に使う記録と、推論のときに入れるデータは別に用意します。学習で手がかりにした項目は、AIを使う日にも同じ形で揃えられる必要があります。
- 生成AIのチャットで利用者がしているのは推論です。例を見せて頼む方法は「コンテキスト内学習」と呼ばれますが、AIの学習済みのパラメータは更新されません。
学習はAIを作る作業、推論はAIを使う作業
AIの説明や提案書には、「学習データ」「学習済みモデル」「推論」といった言葉がよく出てきます。総務省と経済産業省のAI事業者ガイドライン(第1.2版)(令和8年3月31日)は、本編の用語の定義で2つを次のように説明しています(2026年10月29日に確認)。
学習
データを用いてAIモデルのパラメータを決定または改善するプロセス。パラメータは、AIの中身にあたる数値のことです。手法には教師あり学習、教師なし学習、強化学習などが含まれます。
推論
学習済みモデルに未知のデータを与え、出力(予測・分類・生成など)を得るプロセス。学習が終わったAIに、まだ見ていないデータを入れて答えを出させる段階です。
式で見ると、数値を決めるのが学習、当てはめるのが推論
同じガイドラインは、AIモデルの参考の定義としてJIS X 22989:2023を引き、xに一定の数を掛けて、別の一定の数を足す形の式(単変量の線形関数)を過去のデータで訓練した結果、「y=3+7x」になるという例を挙げています。
この例でいえば、過去のデータから3と7という数値を決める作業が学習です。決まった式に新しいxを入れてyを出す作業が推論です。実際のAIは数値の数も式の形もずっと複雑ですが、作る段階と使う段階が分かれている点は同じです。
次は当社が想定した例で、実際の相談事例ではありません。飲食店の来客数を予測するAIなら、2つの作業は次のように分かれます。
学習(作るとき・作り直すとき)
過去2年分の日ごとの来客数と、その日の曜日・天気・予約の数の記録を使って、来客数を予測する仕組みを作る。最初に行い、その後は学び直すときに行う。
推論(使うたび)
毎朝、あしたの曜日・天気予報・予約の数を入れて、あしたの来客数の見込みを出す。AIを使い続ける間、毎日行う。
学習に使う記録と、推論に入れるデータは別に用意する
ガイドラインは、学習で用いるデータを、AIモデルの構築・評価に使う訓練データ、検証データ、テストデータに分けると説明しています。学習に使っていない期間で成績を確かめる考え方はAIの「精度95%」は何を表している?で紹介しています。
推論で使うデータについては、利用者が入力するプロンプトやセンサーから取ったデータに加え、RAGなどを通じて外から補った情報が使われると書かれています。
当社は、学習で手がかりにした項目を、AIを使う日にも同じ形で揃えられるかを先に確かめます。上の例で予約の数を使うなら、毎朝その数を誰かが入れるか、予約の仕組みから取り込む必要があります。学習では実際の天気の記録を使えても、使う日の朝に手に入るのは天気予報です。過去の記録にあっても使う日に手に入らない項目は、推論では使えません。どの項目を入れるかの考え方はAIに手がかりを全部入れれば、予測は良くなる?で説明しています。
生成AIのチャットで利用者がしているのは推論
生成AIでは、大量の文章で学習する作業は開発元が行います。利用者がチャットで質問して答えを受け取るのは、学習済みのモデルを使った推論です。ガイドラインは、学習が、AIモデルの汎用の性能を形づくる事前学習と、必要に応じて調整を続ける事後学習の2つから成る場合があるとし、事後学習の主な手法にファインチューニングやデータの追加による再学習を挙げています。
頼むときに例を見せると、例に沿った答えが返ってきます。ガイドラインは、大規模言語モデルなどの生成AIでは、利用者が学習済みパラメータを更新することなく、入力(プロンプト)に応じて特定の作業を学習させられるとし、これを「コンテキスト内学習」と呼んでいます。名前に学習と付いていても、AIの中身は変わりません。社内の資料を探して答えに使うRAGも、推論のときに資料を渡す方法です。仕組みは社内の資料をもとに答えるAIとは?RAGの仕組みにまとめています。
入力した内容が開発元の今後の学習に使われるかどうかは、これとは別の話で、サービスや契約によって扱いが違います。確かめる場所は生成AIに入力した内容は、AIの学習に使われる?で、使っているうちにAIが変わるのかはAIは使っているうちに勝手に賢くなる?で説明しています。
提案書や見積もりで、2つを分けて聞く
「学習」と「推論」のどちらの話かが分かると、何を用意し、いつ費用がかかるのかを聞きやすくなります。AIの導入を検討するときは、次の3つを分けて確かめておくと整理しやすくなります。
学習に使うデータ
どの期間の、どの記録を使うか。誰が用意し、どの形で渡すか。学び直すときにも同じ記録を使えるか。
推論に入れるデータ
使うたびに何を入れるか。誰が入力するのか、それとも今の仕組みから自動で取り込めるのか。
推論を動かす場所と回数
AIをどこで動かすか(クラウドのサーバー、店のパソコンなど)と、1日に何回使うか。使うたびに料金がかかるサービスでは、回数と量が月々の費用に関わります。生成AIのAPIの料金の数え方は生成AIのAPIとは?で説明しています。
開発費と月々の費用が、どちらの作業に当たるか
学習は作るときと学び直すときに行う作業で、推論はAIを使い続ける間ずっと行う作業です。見積もりを見るときは、開発費と月々の費用のそれぞれに、学習と推論のどちらの作業が含まれているかを聞くと、複数の見積もりを比べやすくなります。費用の決まり方はAI開発にはいくらかかるのかで整理しています。
AIに何を学習させ、毎日何を入れるのか、一緒に整理します。
手元にどんな記録があるか分からない段階でも相談できます。資料やデータの提出は要りません。AIに任せたい作業を伺い、学習に使えそうな記録と、使う日に入れるデータが揃うかを、できること・できないことと合わせて確かめます。
