AIの基礎・活用
生成AIを、接客や電話応対の練習相手にできる?
チャット型の生成AIに「お客さん役をして」と頼むと、電話の予約受付や苦情の受け方を、相手役の人を用意せずに何度でも練習できます。最初に役・場面・店の決まりを伝え、終わったら聞き漏れを挙げてもらいます。AIの指摘は参考にとどめ、店のやり方と照らすのは人です。
この記事でわかること
- 生成AIにお客さん役を頼み、自分は店員役として文字で交互にやりとりします。先輩や店長の時間を取らずに、同じ場面を何度でも繰り返せます。
- 頼むときは、どんなお客さんか、どんな用件か、店の決まり、進め方の4つを書きます。店の決まりを渡さないと、AIは店の事情を知らないまま話を進めます。
- 終わったら、聞き漏れたことと言い方の直し方を挙げてもらいます。指摘が店のやり方と合っているかは、店長や先輩と確かめます。
- 苦情の練習では、丁寧に応じる場面と、店として線を引く場面を分けて練習します。どこで上司に代わるかは、AIではなく店が決めておきます。
- 実在のお客さんの名前や、実際の苦情の記録はそのまま入力しません。
生成AIに、お客さん役を頼む
ChatGPTのようなチャット型の生成AIには、役を与えて頼むことができます。生成AIのClaudeを開発するAnthropic社の手引き(Prompting best practices)は、役を一文で伝えるだけでも、AIのふるまいや口調がその使い方に合わせて変わると説明しています。手引きの例は専門家の役ですが、同じ考え方で、AIにお客さん役、自分に店員役を割り当てて、接客や電話応対の練習をします。
人どうしの練習では、お客さん役を誰かに頼む必要があり、忙しい店では時間を合わせにくいものです。AIが相手なら、空いた時間に一人で始められ、同じ場面をやり直すこともできます。人前で練習するのが気恥ずかしい人でも、最初の数回をAI相手に済ませておくと、人との練習に入りやすくなります。
練習しやすい場面の例
次は当社が考えた使い方の例です。導入事例ではありません。用件がある程度決まっていて、聞くことや伝えることの順番がある場面ほど、練習の効果を確かめやすくなります。
電話での予約の受付
日時・人数・名前・連絡先を聞き、店の決まりを伝える練習です。途中で人数が変わる、希望の時間が埋まっているなど、少しずつ条件を変えて繰り返せます。聞き漏れがないかは、終わったあとに振り返りで確かめます。
商品やメニューへの質問
「辛くないものはどれ?」「持ち帰りはできる?」のような質問に答える練習です。AIは店の商品を知らないので、お客さん役だけを任せ、答える中身は店の資料を見ながら自分で考えます。
苦情の受け方
料理が遅い、注文と違う品が届いたといった苦情を受け、事情を聞いて謝る練習です。気をつける点は、後の節で説明します。
新しく入った人の最初の接客
来店時のあいさつ、席への案内、会計のときの一言など、毎回くり返す流れを覚える練習です。慣れた人が教える前に一通り試しておくと、教わる側も質問を用意しやすくなります。
営業や商談の受け答え
店や会社の外へ出る場面にも使えます。価格を聞かれる、他社と比べられる、いったん断られるなど、答えに詰まりそうな場面を先に経験しておきます。
頼むときに書く4つのこと
「お客さん役をして」の一言だけでは、AIはありがちなお客さんを演じ、店の事情とかけ離れた話になりがちです。次の4つを最初に書きます。頼み方そのものの基本は生成AIにうまく頼むには?で説明しています。
どんなお客さんか
年代や立場、急いでいるか、初めて来るのか常連か。話し方の特徴まで書くと、場面に近づきます。
どんな用件か
予約したい、質問がある、苦情を言いたいなど、話の目的を1つに絞ります。用件が混ざると、何を練習したのか分からなくなります。
店の決まり
受けられる人数、営業時間、できることとできないこと。これを渡しておくと、AIのお客さん役が決まりにない要望を出したとき、どう断るかの練習にもなります。
進め方
「一度に1つずつ話して、こちらの返事を待って」「『終了』と書いたら役をやめて振り返りをして」のように、会話の進め方と終わり方を決めておきます。
頼み方の例
次は当社が作った例です。AIの返事は毎回変わるため、ここでは載せていません。
「札幌の小さな居酒屋で、電話の予約を受ける練習をしたいです。あなたはお客さん役をしてください。金曜の夜に6人で予約したい会社員で、途中で8人に増えるかもしれないと言い出します。名前と電話番号を聞かれたら、架空のものを答えてください。店の決まりは、8人までは座敷で受けられる、金曜の夜は2時間制、予約の確定には名前と電話番号を聞く、の3つです。お客さんとして一度に1つずつ話し、私の返事を待ってください。私が『終了』と書いたら役をやめ、私が聞き漏れたことと、言い方で直すとよい点を3つまで挙げてください。」
お客さん、用件、店の決まり、進め方の4つが入っています。店の決まりは例として当社が置いたもので、実際は自分の店の決まりに書き換えます。
振り返りは、店のやり方と照らして確かめる
練習が終わったら、AIに聞き漏れや言い方の直し方を挙げてもらいます。自分では気づかなかった抜けが見つかることがあります。
ただし、AIの指摘がいつも正しいとは限りません。生成AIは、もっともらしい文章を作るしくみのため、店の決まりと違うことを自然な文章で勧めることがあります。理由は生成AIの答えが間違っているのはなぜ?で説明しています。指摘の中身が店のやり方に合っているかは、店長や慣れた先輩と一緒に確かめます。
練習で使ってみて良かった言い回しは、店の電話メモや接客の手引きに書き足しておきます。次に入った人も同じ言い方から始められます。
苦情の練習で気をつけること
2026年10月1日から、改正された労働施策総合推進法により、お客さんなどからの著しい迷惑行為(カスタマーハラスメント)への対策が事業主の義務になりました(厚生労働省の案内)。厚生労働省の指針(令和8年厚生労働省告示第51号)は、カスタマーハラスメントに当たるのは、社会通念上許容される範囲を超える言動で、働く人の就業環境が害されるものだとしています。正当な申し入れはこれに当たらず、それを踏まえて仕事をする意識も大切だとしています。
同じ指針は、望ましい取り組みとして、接客や苦情への対応についての研修などで、働く人の対応力を高めることを挙げています。生成AIとの練習はその方法の一つになり得ますが、練習をしただけで、法律が事業主に求めている措置を講じたことにはなりません。方針を決めて周知することや、相談を受ける体制を整えることは、指針の内容を厚生労働省の資料で確かめて進めます。
練習では、丁寧に話を聞いて謝る場面と、店として線を引く場面を分けます。強い言葉を浴びせられた、何度も同じ要求を繰り返されたなど、どこから上司に代わるか、どう伝えて通話を終えるかは、店が先に決めておきます。決めた対応をAIの練習に書き込めば、その流れを繰り返し確かめられます。
荒い言葉を使うお客さん役の練習は、短い時間で区切ります。つらくなったらいつでもやめてよいと、練習する人に伝えておきます。
入力しないもの
練習の場面は作り話にします。実在のお客さんの名前・電話番号や、実際に受けた苦情の記録をそのまま貼り付けることはしません。実際の出来事を材料にしたいときは、名前や日付、店が特定できる部分を変えてから使います。
入力した内容がAIの学習に使われるかどうかは、使うサービスの利用規約や設定で確かめます。社内で使い始めるときの決めごとは社員が生成AIを使い始めたら、何を決めておく?にまとめています。
最初の一歩は、いちばん多い電話の用件で5分
今週いちばん多かった電話の用件を1つ選び、上の例を自分の店の決まりに書き換えて、5分だけ店員役をやってみます。終わったら振り返りを頼み、店のやり方と違う指摘には印を付けておきます。
何度か続けて役に立つと分かったら、店の手引きを読み込ませて答え方まで確かめられる練習の仕組みにする方法もあります。資料を読ませるしくみは社内の資料をもとに答えるAIとは?で、声でやりとりする練習に広げるときの考え方は話した言葉を文字にするAIで、何ができる?と文章を声で読み上げるAIで、何ができる?で紹介しています。
練習に使えそうな場面を、一緒に探します。
生成AIを店の教育に使ってみたいが、どこから試せばよいか分からない。そんな段階でも相談できます。資料や仕様の提出は要りません。いまの接客や電話応対の教え方を伺い、AIとの練習に向く場面と、人が確かめる部分を、できること・できないことと合わせて整理します。
